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大阪高等裁判所 平成5年(ラ)400号 決定

主文

原決定を取り消す。

相手方は抗告人に対し、別紙物件目録(2)記載の不動産を引き渡せ。

手続費用は第一、二審とも相手方の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙一(執行抗告状写し)及び同二(上申書)記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

不動産の共有持分は、不動産執行においては不動産とみなされる(民事執行法四三条二項)のであるから、文理上、不動産共有持分の買受人が同法八三条一項の「代金を納付した買受人」に含まれることは明らかである。

一方、同条に基づく引渡命令制度の趣旨は、代金を納付した買受人がその不動産を占有する債務者らに対し実体法上所有権等に基づいて引渡しを請求することができることを前提とした上、買受人の負担において引渡請求訴訟を提起しなければならないとの原則に固執すると、買受希望者が減少し適正な換価が望めないところから、執行裁判所における略式手続により簡易に引渡執行の債務名義を取得する手段を買受人に与えることとした点にあるものであるから、引渡命令の申立権を有する買受人とは、執行手続において買い受けた権利に基づいて、債務者らに対し目的不動産の引渡しを請求することができる者がこれに当たるというべきである。

そこで、抗告人のような不動産の共有持分(二分の一)を買い受けた買受人が債務者に対し単独で目的不動産の引渡しを請求することができるかどうかについて考えるに、一般に共有は、数人が共同して所有権を有する状態であり、各共有者は各自物の全部について一個の所有権を有し、ただ各所有権が他の共有者の権利によつて抑制減縮されているにすぎないものであつて、その性質内容は単独所有権と何ら異なるものではない。したがつて、他の共有者以外の第三者が目的物を権原なしに占有する場合には、共有権者は共有持分権に基づいてその引渡しを請求することができ、かつ、目的物が一個不可分であるため、不可分債務に関する民法四二八条の類推適用により、または、保存行為に関する同法二五二条但書により、単独でこれを請求することができるものというべきであつて、不動産の共有持分の買受人もまた、実体法上債務者らに対し単独で目的不動産の引渡しを請求する権利を有するというべきである。

本件の場合、一件記録によれば、抗告人が京都地方裁判所平成二年(ケ)第九八号競売事件において、別紙物件目録(1)記載の不動産の共有持分(二分の一)を買い受け、代金を納付したこと、及び相手方が同事件の債務者で同不動産を権原なしに占有する者であることが明らかであるから、抗告人も民事執行法八三条一項の「代金を納付した買受人」に当たり本件引渡命令の申立権を有するものといわなければならない。そうすると、これを否定して本件申立てを却下した原決定は違法というよりほかはない。

もつとも、引渡命令によつて引渡しを受けた本件建物を具体的にどのように使用するかは共有者間の合意によつて定まるところであつて、他の共有者との協議を経ないで抗告人が当然に本件建物を単独で自由に使用する権限を有することになるものではないけれども、そのことは、本件建物の引渡しを受けた後の使用に関することであつて、なんら単独での引渡請求権そのものを否定する根拠となるものではない。

以上のとおりであるから、原決定を取り消し、相手方に対して本件建物を抗告人に引き渡すべきことを命じ、本件手続費用は第一、二審とも相手方に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 藤原弘道 裁判官 野村利夫 裁判官 楠本 新)

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